夏目漱石の小説「坊っちゃん」の中でターナー島と名付けられる島が出てきます。
主人公の’’坊っちゃん’’、教頭の’’赤シャツ’’、教頭の太鼓持ち’’野だ’’の三人が釣りに行った場面にて
向こう側を見ると青島が浮いている。これは人の住まない島だそうだ。よく見ると石と松ばかりだ。なるほど石と松ばかりじゃ住めっこない。
赤シャツは、しきりに眺望していい景色だと言っている。野だは絶景でげすと言っている。絶景だかなんだか知らないが、いい心持ちに相違ない。ひろびろとした海の上で、潮風に吹かれるのも薬だと思った。いやに腹が減る。
「あの松をみたまえ、幹がまっすぐで、上が傘のように開いてターナーの絵にありそうだね」
と赤シャツが野だに言う。野だは
「全くターナーですね。どうもあの曲がり具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。
ターナーとは何のことだか知らないが、聞かないでも困らないことだから黙っていた。
舟は島を右に見てぐるりと回った。波は全くない。これで海だとは受け取りにくいほど平らだ。赤シャツのおかげではなはだ愉快だ。できることならあの島の上へ上がってみたいと思ったから、あの岩のある所へは舟はつけられないんですかと聞いてみた。
つけられんこともないですが、釣りをするには。あまり岸じゃいけないですと赤シャツが異議を申し立てた。おれは黙ってた。
すると野だがどうです教頭、これからあの島をターナー島と名づけようじゃありませんかとよけいな発議をした。
赤シャツはそいつはおもしろい。われわれはこれからそう言おうと賛成した。「坊っちゃん」より引用
会話内でしきりに出てくるターナーというのはイギリスの画家で、’’ジョゼフ・マロード・ウイリアム・ターナー’’といいます。
そして’’ターナーの絵’’というのは1830年代に描かれた作品「金枝」です。
確かに「金枝」には松が描かれており、イギリス・ロンドンに留学していた漱石がターナーを知らないわけもなく、’’ターナー’’という言葉で坊っちゃん達が見ている景色を上手に書き表しています。
四十島は高さ18m、周囲は135mで3つの岩礁から形成される島です。
昔から島にはクロマツが群生していましたが、1977年にマツクイムシによって全滅してしまいます。
再生不可能と多方面から言われていましたが、有志の努力によって無理と言われた松の再生に成功して現在は20本ほどの松が自生しています。
愛媛県松山出身の俳人、正岡子規も四十島の松に関しての俳句をいくつか呼んでいます。
初汐や 松に浪こす四十島
薫風や 裸の上に松の影